室内環境を制御し、最適環境を維持・管理する植物工場では、野菜以外にも多くの活用方法がある。株式会社きものブレインでは、3年の研究期間を経て事業化した工場生産型の無菌養蚕「みどり繭」から抽出したシルク成分を活用し、コスメ、サプリ商品の本格販売を開始した。
1988年、新潟県にて設立した同社では、着物の撥水加工・縫製などの加工業務、レンタル販売などを行っている。そして、シルクの研究を進める中で、白繭にはない特徴を持つ ”みどり繭” に出会い、優れた健康成分を活かすための「無菌人工給餌周年養蚕システム」の事業化に、2015年に成功した。
みどり繭は一般的な繭に比べ、約2倍のフラボノイドを含むなど、優れた健康成分を含んでいます。
中でも、シルクタンパク質「セリシン」は、人間の肌と共通する18種類のアミノ酸で構成され、近年の研究で「保湿」「抗酸化」「紫外線防御」などの効果が期待されています。また、未利用のタンパク資源として注目されています。
みどり繭のセリシンとは:
シルクは手術用の糸にも使われるほど、人間の皮膚に近い繊維といわれ、絹糸となるタンパク質「フィブロイン」と、その外側を包むタンパク質「セリシン」で構成されています。
みどり繭は一般的な白繭に比べ、このセリシンを豊富に含んでします。
参考)セリシン 対 フィブロイン比
みどり繭 40%:60%、白繭 25%:75% (当社無菌養蚕工場調べ)
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植物工場による遺伝子組み換えカイコにて医薬品の素材開発も
他社の事例として、株式会社免疫生物研究所では、植物工場による閉鎖施設空間内に遺伝子組み換えカイコを用いて、血液を凝固させる性質を持つたんぱく質:フィブリノゲンを、効率的に生産する技術開発に世界で初めて成功したと、2011年に発表している。
フィブリノゲンを主成分とした製剤は、止血用医薬品などに広く用いられているが、人の血液から作られるため、原料の血液に肝炎ウイルスが混入していると、肝炎に感染するリスクがある。
新しい製造方法では、より安全で効率的な生産に近づく可能性を含んでおり、高度な環境制御技術を活用した植物工場における医薬品・医療用新素材の生産にもつながる分野である。
本研究は、農林水産省の補助金を得て、独立行政法人農業生物資源研究所や日本製粉と共同研究を進めている。
同社によると、遺伝子組み換えカイコが繭を作る際に、絹繊維どうしをくっつけるため、はき出す「のり」の部分にフィブリノゲンが含まれ、簡単に抽出・精製する技術も確立した。
なお、カイコは卵から繭まで約45日間で成長するため、短期間で量産することも期待できるという。