株式会社矢野経済研究所は、国内における完全人工光型植物工場市場の調査結果を発表した。工場野菜生産者出荷金額ベースで前年度比142.2%の84億9,000万円、2020年度の同市場は、同152.2%の129億2,000万円になる見通し、となっている。
1.市場概況
2019年末に、中国武漢で発生した新型コロナウイルス(COVID-19)感染症は、生活全般に影響を及ぼしている。コロナ禍の中で、食品の衛生面や食の安全・安心に対して消費者の意識が強まっている。
植物工場野菜は、袋詰めで販売され衛生的なイメージがあることや、露地野菜に比べて菌数が少ない点などが消費者に評価されている。
業務用・市販用途別に需要をみると、業務用需要の割合が伸長している。気候変動や天候不順により、露地野菜の調達相場は大きく変動し、調達は年々難しくなっている。一方で、植物工場産野菜は閉鎖環境下で栽培されることから、気候変動に左右されず生産量が安定して確保できるため、評価を得ている。
業務用では、コンビニエンスストア向けのサラダやサンドイッチなどで需要が拡大している。大手コンビニエンスストアを中心に、衛生管理下で生産された植物工場産レタスを使用し、サンドイッチの賞味期限を伸ばす取り組みが進められている。そのほか、総菜など中食ではカット野菜や生春巻き、外食チェーンではサラダや料理の付合せで需要が拡大している。
また、植物工場野菜の生産品種は、重量の出やすいフリルレタスや、比較的少ない光量でも育つアイスプラント、グリーンリーフが中心となっている。
2.注目トピック
■自動化システム~省人化でコロナ禍でも安心の衛生環境~
この数年、労働者の最低賃金は上昇しており、また高齢化から全国的に労働力が不足している。加えて、農業現場を支えてきた外国人農業研修生の確保が、コロナ禍の影響により難しくなっている。
今後も人手不足の傾向は続くことが予測され、省人化・生産性向上のためには、自動化技術を導入する流れが加速すると見られる。
自動化された植物工場では、大規模工場になるほど人件費が抑えられるほか、工場内に人が立ち入る機会が無くなるため、野菜に菌が付かず衛生状態を確保できるメリットがある。この点は、新型コロナウイルスなど、感染症の流行に際しては大きな利点であるといえる。
今後は、自動化を推進する大規模工場と、一部設備で半自動化を取り入れる中小規模の工場の二極化が進むことが考えられる。植物工場野菜のニーズ変化に合わせ、栽培方法や運営方法へ柔軟に対応できる自動化システムが求められる。
3.将来展望
植物⼯場野菜は、業務⽤ニーズの⾼まりや市販⽤販売の好調、⽇産1万株以上の⼤規模植物⼯場の稼働本格化などを受けて、市場の拡⼤が継続している。今後は、結球レタス、ケールやほうれん草、ラディッシュ、ハーブなどへの栽培品種拡⼤が⾒込まれている。
植物⼯場運営事業者では、売上増に向けた新⼯場の事業計画が顕在化しており、今後も、市場は拡⼤傾向で推移する⾒通しである。完全⼈⼯光型植物⼯場の運営市場規模(⼯場野菜⽣産者出荷⾦額ベース)は、2024年度には360億円に達すると予測する。
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