ICT・センサー技術を活用した環境制御型・植物工場や一般的な温室ハウス(施設園芸)であっても、露地栽培と比較すると大きな設備コストが経営を圧迫する。また暑い地域に設置する場合は冷却、寒いエリアでは暖房設備の導入とともに、大きなエネルギーコストも問題となり、採算性があわず撤退・倒産するケースは日本国内だけでなく、世界各国でも共通の課題である。
高収量を実現する省エネ型の植物育成用LED光源の開発、大規模な施設を効率よく運営し、省力化をはかるための各種・自動ロボット技術など、植物工場や施設園芸分野では幅広いテーマについて研究開発や実証試験が進められている。
露地栽培では種苗開発や農薬・化学肥料などがメインテーマであり、世界のメジャーカンパニーによる独占ビジネスであったが、施設栽培では今まで農業分野とは接点の無かったテクノロジーが応用されることもあり、異分野からの新規参入が増えていることは間違いない。
LED光源、環境制御技術、水関連技術、自動ロボット、3DプリンターやGPS・衛星技術、ビッグデータ解析など、様々なテクノロジー分野がある中で、将来的に注目されているものが「機能性フィルム」である。
日本における有機薄膜太陽光電池OPVの開発について
植物工場を含む施設栽培では多くの農業用フィルムを使用する。一般的には、塩化ビニルによる農業用ビニルフィルム、農業用ポリエチレンフィルム(農ポリ)、農業用ポリオレフィン系のフィルム(農PO)などが使用されている。
こうしたハウス用フィルムの代わりに、ビニル状の透明あるいは半透明タイプの太陽光電池を導入し、発電を行いながら植物の生長に必要な光を透過させる特殊発電フィルムの開発が行われている。日本国内では先日、長野県にて産学官研究コンソーシアムの形で開発をスタートし、2019年頃の試作品完成を目標とするニュースがあった。
長野県農政部の果樹試験場などが研究開発しているものは、フィルム状の透過型・有機薄膜太陽光電池(OPV:Organic Photovoltaics)というものであり、主に植物の光合成にて必要な赤・青波長は透過させ、植物の生長に不要な光波長はOPVが受け止めて発電するというものである。
フィルムに塗る半導体塗料の色や厚さを変えることで透過させる光波長をカスタマイズできるが、各植物や同じ植物でも成長ステージによって最適な光波長がどのようなものか、全てが解明されているわけではないことから、県では雨よけによるブドウ栽培を試験対象として、発電量や最適波長の検証を行う計画としている。
透過型・有機薄膜太陽光電池OPVについて、日本では研究段階にあるため実際の施設現場での普及は、もう少し先のことになるだろう。OPV技術については、温室ハウス用フィルムの大手メーカーでもある三菱化学をはじめ、大手企業も研究開発に着手している。
日本では現在、太陽光パネルを農地に設置して発電・営農するソーラーシェアリングについては、規定が明確化され条件つきではあるが、農地の「一時転用」による設置が認められ普及している。OPVについても、具体的な市場投入・普及段階では農林水産省との調整が必要となるケースが出てくるだろう。
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海外における植物工場・施設栽培向け有機薄膜太陽光電池OPV
海外でも植物工場・施設園芸向けの有機薄膜太陽光電池OPVの開発は進められている。例えば米国カリフォルニア州のソリカルチャー社が挙げられる。
同社も基本的な原理は同様であるが、光を吸収する蛍光色素を利用して、非常に弱い光でも発電と植物の育成を同時にできる技術を保有している。太陽の光は幅広い波長域が含まれるが、植物育成に必要な波長は「赤」と「青」が中心であり、緑波長は、ほぼ光合成には利用されていない、といえる。
よって、緑波長は太陽光電池システム内で「赤波長」に変換・増幅され、植物に供給される。同社のOPVが半透明の明るい赤紫色となっているのは、そのためである。
同社の拠点である米国カリフォルニア州の気温は暑く、夏場はエリアによっては30℃を超える日が毎日続くことも多く、冷却設備が必要となる。冷却設備の他、換気ファン、水や養液を供給する灌水チューブやポンプなどを稼働させるためには多くのエネルギーが必要となるが、設置場所によっては全てを太陽光発電にて、まかなうことも可能だと主張する。
青果物の一大生産エリアであるカリフォルニア州では高原の涼しいエリアにて大規模な露地栽培が行われており、植物工場・施設栽培の稼働面積は現状では少ない。
しかし、近年の深刻な干ばつ、安全性の高い無農薬・機能性野菜などを求める消費者が増えており、徐々に大規模な施設栽培も増えている。また、米国では自然エネルギーの普及・推進政策により太陽光発電により税控除を受けることができる、といったメリットもある。
同社によると、現時点では試験的な導入が中心ではあるが、カリフォルニア州などの米国企業や、米国市場向けに園芸作物を輸出しているカナダの植物工場企業から引き合いがある、という。
当初は米国やカナダで普及しているトマトやパプリカといった果菜類や花卉類の施設栽培を想定しているが、イチゴ施設の試験導入も行われている。将来的には幅広い作物に対して、最適波長をカスタマイズした有機薄膜太陽光電池OPVシステムを開発し、普及させていきたい、という。
※ 写真はソリカルチャー社のウェブサイトより引用