ミラク社(ハイテク施設栽培・植物工場)から見る、中東UAEの農業事情/自国産食材の需要について

以下はUAE・アブダビを拠点に水耕栽培事業を展開する「ミラク社」に関するインタビューと関連情報を整理したものである。今までにも、中東諸国の農業事情については少しご紹介してきた。例えば、三菱化学・フェアリー・シーシーエス等がカタールにコンテナ型の植物工場を納入した際には(詳細記事)、カタールの農業事業について記載した。
今回は、UAE・ドバイに拠点を置く:ミラク社(ハイテク施設栽培・植物工場)から見る、中東UAEの農業事情/自国産食材の需要について記載したいと思う。
 
<カタールの農業事情に関する記事>
カタール・中東における農業戦略からみる「コンテナ式植物工場」の需要・ニーズについての考察」、「カタール、技術導入による国内耕作農地の拡大へ
 
 
UAE(アラブ首長国連邦)では農業用に回すための豊富な水がなく、利用可能な農地も少ない。今までは輸入品が、UAE国民や海外労働者の胃袋を満たしてきた。インド・パキスタン・バングラディッシュなど、様々な国籍を持つ人々が混在している同国では、多様な食文化に対して、世界各国から様々な食料が輸入される。少なくとも、UAEで食べられている食料の85%は、海外の土壌で育てられたものだ。(ドバイの2008年における野菜・果物類の輸入額は、約13億5,300万ドル:米ドル)
 
 
07?08年の穀物価格高騰により、UAEといった中東諸国、さらには韓国や中国までもが、アフリカや東南アジアなどで農地を取得し、自国向けの食料確保に積極的な姿勢を見せている。直近の食料価格は、長期的には上昇リスクが高いものの、比較的安定していることから、UAE国内でも海外農地取得や投資を行いつつ、自国の食料自給率を高めようとする声も上がってきているようだ
 
 
しかし、UAEでは銀行や不動産投資といった金融業界が大きな収入を得る一方で、現地で細々と行っている農家は経営的にも非常に厳しいのが実情である。少ないながらも、スーパーマーケットにて販売されている国内産の穀物や野菜の多くを、地元の零細農家が作っているが、砂漠が大半を占めるこの国で、肥沃な農地と限られた水資源を確保することは難しく、輸入品と比較すると販売価格はどうしても高くなってしまう
 
 
UAE Ministry of Agriculture によると、2000年以降、農家の数や生産量は劇的に下がっており、約38,500の農家が53万ha の農地を耕作している(2003年データ)。農家の数は急激に減少しており、一つの農家が管理する農地は拡大しているようだが、政府は正確な数字を把握しておらず、継続的な詳細な調査が必要であるが、なかなか実行に移されていない。
 
 
こんな国内農業の現状を打開しようとチャレンジしているのが「ミラク社」である。イチゴやレタス、とうがらし、トマトやバラなど、栽培している90%を水耕栽培で大量生産している。もちろん生産した野菜・果物は栄養価も高く、高付加価値のある作物を選択して栽培している。同社の方針は、市場で高く売れる作物を選択するだけでなく、将来的に輸出ができる作物に特化することだ
 
ミラク社(ハイテク施設栽培・植物工場)から見る、中東UAEの農業事情/自国産食材の需要について

<バラには文字や絵を描き、プレゼント用といった工夫も行っている>

 
UAEにある従来型の農家は、水不足と高い人件費のために、農業を辞めるか、別のモノを生産することにシフトしている(例:育てやすいナツメヤシなど)。そこに、ハイテク施設栽培(水耕技術)を導入することで、同社では年間に3500トン以上の野菜・果物を栽培しており、その生産量の65%を海外市場に輸出している。例えばシンガポールやEU、さらには日本にも輸出しているのだ。
 
試行錯誤の末、UAEの気候に適した独自の栽培方法を確立。垂直に栽培する方法や育苗室も兼ね備えた植物工場に近いハイテク施設栽培であり、UAE国内の複数の場所に200エーカー以上の農地を保有している。
 

mirak

<ミラク社の施設栽培写真>

 
同社の戦略として、国内と世界をターゲットに事業展開しているのにも理由がある。UAEの食料価格は2000年以降から75%程も上昇しており、国内農地・土壌を回復させる研究に着手したにも関わらず、国内農業分野への投資がなかなか進んでいない。自給率向上のために自国農業分野に対する投資の必要性を感じながらも、長期的な食料戦略としては、海外農地取得を今後も進めていく方針であるのだ。
 
 
よって、同社では国内農家への保護・優遇支援策が弱く、今後も海外からの安い食料品・生鮮品と対抗しなければならない、と予測している。もちろん現状のままであれば、という仮定であり、同国による食料戦略が変更されれば、それに応じた事業戦略へ柔軟に対応していく計画である。
 
 
しかし、今のところは、安全・安心/栄養価の高い国産野菜の価値を認めてくれ、外国産より高い値段を支払ってくれる一部の消費者・購入者に対して、UAE国内で販売しながらも、世界市場でも高値で取引されている農作物や花(バラ)といった高付加価値な商品に特化して生産している。
 
 
現状では、水耕の施設栽培による国産野菜・ローカルフードが、無農薬であり安全・安心/環境にも優しい食材であることを認識して購入する消費者は非常に少ない。政府としても、国産野菜を支援する定期的なキャンペーンを打ち出してはいるものの、その効果は表には現れていない。食を通じた健康に対する意識も低く、ジャンクフードやコーラに手を出し、肥満・糖尿病患者(その予備軍)の割合も増えるばかりである。
 
 
こうした肥満・糖尿病といった慢性的な病気を持つ患者の急増・政府の医療費支出の増大はUAEだけでなく、中東諸国・サウジアラビアでも同様である。RNCOS社(Research & Consultancy Outsourcing Services)の調査によると、サウジでは慢性的な病気と高齢化によって、年間で医薬品市場が12%、医療機器市場は7%の成長が見込まれ、今後3年間でヘルスケア全体の年間成長率が12%にまで拡大すると予測されている。中心都市の病院ではベッド数が足りずに日帰り手術や、新たな在宅医療ブログラムの導入を検討しているほどである。
 
 
話を農業事情に戻すが、UAE国内で農業人口を増やし、自国産の野菜・果物の生産量を拡大していくことは可能なのか?UAE大学の食料・農業分野の教授でもある、Mohamed Salman Al Hammadi氏によると、限られた水資源と農地の問題を解決しない限り、ますます海外依存度を高めることになる、と予測している。幸いにUAEには資金があり、水資源は海水?淡水化やリサイクル技術を導入できる。農地がなければ水耕施設による養液循環システムを導入しながら水の使用量を極力減らし、無農薬で安心・安全な農作物を年中・安定期に供給することができる、と主張している。
<UAE大学の食料・農業分野のWEBサイト、Mohamed Salman Al Hammadi氏のWEBサイト
 
 
政府としても、こうした農業技術への投資を積極的に行い、自国内で経営する農家・生産者には、もっと優遇策を講じるべきであるだろう。現状では水使用量の80%が農業に使用されている一方で、UAEの農業がもたらす産業としての成果、つまりGDP比率はごく僅かなものである。こうした暗い話題では国内農業への回帰や投資拡大が進まないので、中東やイスラム市場に特化した農作物の輸出産業としての確立や、その実現のための戦略プランを提示する必要があるだろう。
 
 

日本国内の植物工場ビジネスについては、調査レポート:植物工場ビジネスの将来性『植物工場の6割赤字/収支均衡3割の現状を打破するためには』 に掲載しておりますので、参考にして頂ければ幸いです。