東大、植物と病原体を共培養する新たなスクリーニング法による「ファイトプラズマ病」治療薬を発見

 東京大学大学院・農学生命科学研究科では、植物病原細菌ファイトプラズマによる植物病の特効薬を発見した。さらに、薬剤の探査に必要となる、ファイトプラズマの培養技術についても、従来では単体培養が難しかったが、今回は新たな培養法(植物と病原体を共培養する方法)を確立した。

ファイトプラズマとは、植物の篩部(植物体の師管などがある部分)に寄生し、ヨコバイなどの昆虫により媒介される植物病原細菌であり、1,000種以上の植物に病気を引き起こし、世界中の農業生産に甚大な被害を及ぼしています。

有効な薬剤がなく抵抗性品種も見つかっていないため防除が難しく、解決策が求められていました。


ファイトプラズマ
1967年にマイコプラズマ様微生物(mycoplasma-like organism, MLO)として日本で初めて発見された、ファイトプラズマ属(モリキューテス綱)に分類される植物病原細菌。

細胞壁を欠いた直径0.1〜0.8 μmの不ぞろいな粒子状で、細菌の中でも最小である。植物の篩部に寄生し、ヨコバイ等の昆虫により植物から植物へと媒介される。

植物に黄化病、萎縮病、天狗巣病、葉化病などの特徴的な病気を引き起こし、最終的には枯死させる。1,000種以上の植物に感染し、世界各地の果樹や熱帯地域のココヤシ、サトウキビなどで大きな問題となっており、日本でも養蚕業に欠かせない桑や、イネ、サツマイモの生産に甚大な被害を及ぼしてきた。


ファイトプラズマを農薬により防除することは困難であり、当時発見された唯一の有効な抗生物質「テトラサイクリン」も、使用をやめると再発するため、伝染源となる感染植物の早期発見・除去と、媒介昆虫の駆除に頼るほかありませんでした。


一般に、細菌に対する薬剤の探索は、薬剤を加えた人工培地上で細菌を生育させ、その細菌の生育が抑えられるかどうかを判断しておこなわれます。

これまで多くの細菌に対して色々な薬剤が発見されていますが、ファイトプラズマの特効薬は見つかっていません。その最大の原因は、ファイトプラズマが人工培地上で培養できないことにありました。

今回、培養困難なファイトプラズマを植物に感染させたまま培地上で培養するという、「逆転の発想」により、ファイトプラズマを植物から完全に消し去る特効薬を効率的に発見する方法を考案し、複数の特効薬を見つけました。これらの薬剤は、植物体内におけるファイトプラズマを消し去り、植物を回復させました。

東大、植物と病原体を共培養する新たなスクリーニング法による「ファイトプラズマ病」治療薬を発見
本研究における薬剤スクリーニング法の特徴
一般細菌は培地上で生育するため、培地に薬剤を添加することで容易に薬剤の効果を検証できるが、ファイトプラズマは培養困難なため、同様のスクリーニング法は適用できなかった。

今回、感染植物を植物用の人工培地(MS培地)上で生育させることで、ファイトプラズマを培地上で間接的に培養できることに着目し、高効率で安定的な薬剤スクリーニング法を開発した。


本研究成果は、ファイトプラズマ病の特効薬としての活用が期待されるとともに、歴史的または商業的に価値のある樹木等の治療、ファイトプラズマへの遺伝子工学的利用技術の開発など、幅広い用途が期待されます。

また、この技術は、培養困難なほかの病原体の特効薬スクリーニングにも利用できます。

東大、植物と病原体を共培養する新たなスクリーニング法による「ファイトプラズマ病」治療薬を発見
治療薬のスクリーニングと治療効果
作用機作の異なる40種類の抗生物質を試した結果、ファイトプラズマの蓄積量を著しく減少させ治療効果をもつ有効薬剤を複数見出した。

なお、ファイトプラズマはゲノムの退行的進化により薬剤のターゲットとなりうる代謝系の大半が失われているうえ、細胞壁を持たないため、ペニシリンに代表されるβラクタム系の細胞壁合成阻害剤などは効き目がない。