前回の[投稿]に続き、北海道帯広市にて(株)ファームノート主催の北海道最大の農業サミットファームノートサミット2016について、スマート農業などを中心に第2セッションの様子について報告する。
近年、ICT・ロボット等で高効率生産を実現する「スマート農業」の普及が農業分野で進んでいる。本セッションでは農業向けICTの先駆者を招き、ICTをどのように営農に活かすことができるのか、具体的な事例を紹介していた。
パネラーは、(株)NTTドコモでの農業ICTプロジェクトを先導する上原宏氏、農業用の土壌水分センサーを開発する東大発ベンチャー企業「SenSprout(センスプラウト)」の技術アドバイザーである川原圭博氏、農業機械の情報化・自動化に関するソフトウエアの開発やコンサルティングを行う(株)農業情報設計社の濱田 安之氏の3名であった。
ドコモによる農業ビジネスへの進出について
全く農業とは関係のないように思えるドコモが、なぜ農業ITなのか。実際、異業種からの農業への新規参入にはリスクが高く、過去には多くの撤退事例もある。セッション内にて、NTTドコモの上原氏は、“何かを売ろうとしているわけではない”と主張した。
ドコモは、すでに農地や山間部にまで張り巡らされた充実したモバイルネットワークをもつ。そのネットワークを利用し、点在する農地の情報を収集・管理する手助けを行う。
生産物や設備プラントなどの販売ではなく、あくまでネットワークやクラウドなどのソリューションを提供する、というのが根本にある。よって、売上だけを最重要項目に設定することはなく、基本的には農業分野からの撤退もない、と断言した。
農業情報設計社、ユーザー目線でのアプリ開発
農業ビジネスにおいても、他ビジネスと同様に提供するサービスは ”シンプル” かつ ”ユーザー目線での使いやすさ” が重要となる。
例えば、気温や湿度、水位などの情報を収集したとする。使いやすさを重視するのであれば、単なるデータ情報を提供するのではなく、その数値データは理想的~最適な範囲なのかを、誰が使用しても一瞬で理解できるところまで、サービスを確立する必要がある。
濱田氏は、自社が開発した世界的シェアを誇るアプリ「AgriBus-NAVI(アグリバスナビ)」を例に挙げた。このアプリは、GPSを使ってトラクターの位置と方向を把握し、直進運転をサポートする。いわば “農業版カーナビ” のようなサービスである。
「AgriBus-NAVI(アグリバスナビ)」はスマホにダウンロードするだけで利用でき、どこを走ったのか、走るべきルートが視覚的に表示され、直感的に理解することができる。同社のアプリはGoogle playストアに掲載したところ、世界中に広まった。低価格帯かつ、シンプルな製品へのニーズは世界共通であることを実感した、という。
SenSprout、単一品種のデータを低コストかつ大量に収集できる
データを評価するために情報の規格化・標準化が実現できていない点が、農業ITにおける今後の可能性と大きな課題である、と川原氏は主張する。
現在、使用されているスマホアプリは頻繁にアップデートが行われているが、農業の情報は、それほど頻繁に収集することが難しく、評価するまでに時間がかかる。さらに、取り扱う作物・品種が多様であるために、情報収集は困難を極める。
同社では、まずは単体におけるデータを収集・評価基準として設定し、複合的な関係性を分析していく必要がある、と考えている。そのためにも安価で大量に普及し、高頻度でデータを収集できるような技術や仕組みが必要であり、同社では現在、土壌中の水分量を測定しLEDで通知する商品を開発・販売を開始している。
「SenSprout(センスプラウト)」の土壌モニタリングセンサー。プリント技術を応用した小型センサーを利用しており、低コストかつ小ロットからの製造もできる。LEDによる色から水分量が一瞬で判断できる仕様になっている。写真:家庭用向け商品を独占販売する愛三電機のWEBサイトより引用。
農業ITシステムは、シンプルな設計で誰でも理解できるものが求められる。さらに他ビジネスと異なり、農業は長期的な視野にて考える必要がある。生産現場における農業ITについて、情報収集システムを導入することが最初のハードルとなり、収集した膨大なデータをどのように考えるのか、という課題がある。
大量のデータを取得したところで、そのデータを分析し、改善することができなければ農業ITシステムの存在意義はなくなってしまうことを念頭に入れながら、新たなサービスを設計・開発する際には、ユーザー目線での総合的なサービスが今後は求められるだろう。
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