富士経済では、TPPを契機に政府が成長産業化を目指す国内アグリビジネスの関連市場について調査し、その結果を報告書「アグリビジネスの現状と将来展望 2016」にまとめた。
この報告書では植物工場・施設園芸に関連した養液栽培関連プラント(4品目)、養液・施設栽培関連機器・資材(7品目)、ICT農業・流通関連システム(3品目)の国内市場(一部日系の海外実績も含む)を調査・分析した。
また、生産から加工、流通、販売までの農業バリューチェーンの構築状況、栽培ビジネスや農業のICT化に取り組む企業の事例を分析することで、今後のアグリビジネスの動向も捉えた。
◆注目市場
次世代施設園芸関連国内市場
2015年:151億円
2020年予測:263億円
2015年比:174.2%
市場は養液栽培関連プラント(植物工場、湛液型栽培プラント、NFT栽培プラント、固形培地栽培プラント)、環境制御装置、灌水/給液管理装置、植物育成用光源、炭酸ガス発生装置、固形培地(水稲育苗用除く)、環境モニタリングシステム、生産管理クラウドサービスの合計である。
栽培の目的は外販、自社(グループ)店舗で販売、自社原料として利用など様々であるが、企業による様々な形での栽培ビジネスへの参入が展開されている。
大規模露地栽培の展開のほか、近年では植物工場(完全人工型の植物工場を対象)における葉菜類などの大量生産やイチゴのような単価の高い農作物の栽培による差別化、ICTを活用した栽培環境の制御、栄養成分のコントロールや味質・食感改善によって農作物の付加価値を高める施設栽培に注目が集まっている。また、政府の支援事業なども後押しすることから今後は次世代の施設園芸関連の市場が拡大すると予想される。
企業による栽培ビジネスは、農作物の栽培にとどまらず、加工、流通、販売との連携を意識した取り組みが増加しており、六次産業化や農業をベースとした地域活性化、自らが生産から販売のバリューチェーンを繋ぐコーディネーターとなるような取り組みなど、多様化している。
<調査結果の概要>
◇アグリビジネス関連国内市場
2015年の市場は、ガラス/フィルムハウスやそれに付随する装置が伸びたものの、植物工場と、栽培用空調機器のヒートポンプが大きく落ち込み、前年比4.7%減の550億円となった。
2016年は植物工場が受注の回復により伸びるが、ガラス/フィルムハウスやハウス関連設備が落ち込み、ヒートポンプの低迷も続くとみられるため、養液・施設栽培関連機器・資材が大幅減となり、市場はマイナス成長が続くとみられる。
但し、2016年2月に署名に至ったTPP(環太平洋パートナーシップ)協定に対し、国内農業は低コスト化や付加価値向上などの対策が迫られており、経営体制の強化に向けた小規模農場の集約化や営農組合などの地方団体の法人化の推進、農林水産省が掲げるTPP対策関連の支援事業である「産地パワーアップ事業」をはじめとした各省庁からの補助事業による大規模栽培施設の設立やICTの活用など高性能な栽培設備の導入の増加などが期待され、2017年以降の市場は再び拡大に向かうと予想される。
◆養液栽培関連プラント
2015年は、東日本大震災からの復興特需の一巡や、旧みらいの経営破たんの影響もあり、植物工場が落ち込み、縮小した。ただし、企業による農業ビジネスへの参入意欲は依然旺盛であり、既存施設のスケールアップや海外需要の増加により、2016年には植物工場の需要は上向くとみられる。
また、養液栽培プラントの主流となっている固形培地栽培プラントは、大規模施設の増加や土耕栽培からの需要シフトを背景に、2016年以降も緩やかな拡大が続くと予想される。
◆養液・施設栽培関連機器・資材
2015年は、「次世代施設園芸導入加速化支援事業」や2014年に発生した関東地方における雪害からの復興特需によりガラス/フィルムハウスや環境制御装置、炭酸ガス発生装置が伸びた。
一方で植物育成用光源が植物工場の新規施工案件の減少や震災復興需要の一巡などにより落ち込み、また栽培用空調機器の大部分を占めるヒートポンプも石油製品価格の下落に伴うコストメリットの低下や新規開拓の一巡により落ち込み、前年比4.2%減の453億円となった。
2016年は炭酸ガス発生装置の伸びが続き、植物育成用光源も植物工場の需要回復により伸びるが、一方でガラス/フィルムハウスや環境制御装置が雪害復興特需の終息に伴い前年を割り込み、また、ヒートポンプの低迷も続くことから市場はマイナスが見込まれる。
◆ICT農業・流通関連システム
環境モニタリングシステムは、2014年から2015年には複数メーカーの新規参入により機能や関連サービスが充実したハイエンド装置や比較的安価な装置が発売され選択肢が広がっており、2015年に市場が前年比33.3%増の4億円に拡大した。
今後は小規模農場の集約化が進むとみられ、大規模農場が主なユーザーとなる環境モニタリングシステムは、市場拡大が期待される。
生産管理・販売/物流管理クラウドサービスは、大手ベンダーをはじめ近年様々な農業ICT専業ベンダーや中小ベンダーが参入し、市場の黎明期を迎えている。中でも生産管理に関するクラウドサービスは、スマートフォンやタブレット端末対応で利便性が向上し、農業法人や経営意欲の高い個人農家を中心に導入されつつある。
CA(Controlled Atomosphere)貯蔵システムや低温高湿貯蔵システムといった低温貯蔵システムは、需要が一巡しており、市場は成熟している。
ただし、CA貯蔵システムは農林水産省「産地パワーアップ事業」の支援対象にも挙げられており需要拡大が期待される。また、低温貯蔵システムは、CA貯蔵システムの冷媒ガスに採用されているフロン22が2020年までに全廃目標となっていることから、その置き換え需要により、当面市場拡大が続くとみられる。
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