NTT西日本、理化学研究所や福島大学、北海道大学、東京大学など8組織は、環境再生型農業の普及拡大をめざし「果樹の農業生態系の各層(土壌及び微生物叢、作物)のデジタルデータ化・マルチオミクス解析」に関する共同研究を行う。
なお、得られたデジタルデータは、NTTが提唱するIOWN構想の最先端テクノロジーと組み合わせ、農業のデジタルツインコンピューティングをめざします。
■1.背景と目的
現在の農業システムは、化学肥料・化学農薬を利用するケースが多く、土壌劣化・水質汚染・温室効果ガス発生など、地球規模での環境汚染を招いており、生物多様性に着目したネイチャーポジティブな環境再生型農業に切り替えていく事が世界的にも期待されています。
しかし、化学肥料や化学農薬の利用を控えた環境再生型農業は、除草を含む労力がかかること、栽培技術が未確立であり再現性が低いこと(収量や品質が不安定)などの問題があり、従来の慣行栽培から切り替えが進んでいないのが実情です。
本共同研究では、自然本来の力を最大限に引き出すために、土壌中の微生物機能に着目して解析を進めます。土壌微生物は、その重要性は十分認識されていましたが、解析方法が難しくどのような微生物が存在するか判然としていませんでした。
本研究では近年開発された解析法を用いることで、各農場内の微生物を評価します。農業生態系の各層(土壌及び微生物叢、作物)を科学的に解析し、数値化されたデジタルデータを元に各階層間の相互作用の解明を進めます。
熟練農家の匠の技を見える化し、誰もが自然環境に配慮した農業に従事できる世界をめざします。
■2.共同研究内容
果樹園地の土壌に生息する微生物叢である土壌マイクロバイオーム(土壌微生物プロファイル、土壌微生物の多様度)に基づいた精密診断法を確立することで、生産者が安定的に果樹栽培を実施できるように支援すると共に、世界的な課題となっている環境再生につながる農業の推進をめざします。
研究対象は温州ミカンとし、日本全国の有機栽培、特別栽培、慣行栽培の農場から土壌と作物の両方を収集し科学的に分析し数値化します。
土壌及び微生物叢については、化学性や物理性に加えて、従来の土壌分析では実施されていない土壌マイクロバイオームを評価します。
評価した土壌で栽培された作物については、収量、糖度、酸度、香り成分など品質を多角的に評価し、高品質な作物が栽培される土壌条件を明らかにします。さらに、温室効果ガスなどの環境負荷の定量化も試みます。
以上のような土壌及び微生物叢と作物が対となった解析データを取りまとめ、主成分分析や相関ネットワーク解析などによる統合マルチオミクス解析を実施し、果樹の収量・品質に影響を及ぼす主要因子を明らかにします。
その上で、多様な栽培方法の農場から得た土壌及び微生物叢と作物のデジタルデータを格納した土壌データベース・土壌AIエンジンによる精密診断手法を開発します。
このような土壌マイクロバイオームを含んだマルチオミクス解析を利用する土壌精密診断法の開発を進めることは先進的であり、日本の農業における匠の技を世界に向けて発信するイノベーションにつながることが期待されます。本共同研究からデータに基づく環境再生型の持続可能な農業の実現をめざします。
[用語の解説]
*1 ネイチャーポジティブ:自然に良い影響をもたらす、自然を優先する
*2 環境再生型農業:土壌を修復・改善しながら自然環境を回復する農業
*3 マルチオミクス解析:「オミクス解析」は解析対象を網羅的に検出・解析する手法、「マルチオミクス解析」は個別のオミクス解析を統合した解析手法
*4 IOWN(アイオン)構想:Innovative Optical & Wireless Network 光ベースの革新的なネットワークの構想
*5 デジタルツインコンピューティング:従来のデジタルツインの概念を発展させて、多様な産業やモノとヒトのデジタルツインを自在に掛け合わせて演算を行うことにより、都市におけるヒトと自動車など、これまで総合的に扱うことができなかった組合せを高精度に再現し、さらに未来を予測する技術
*6 慣行栽培:普通一般に行われている化学農薬や化学肥料を使用する従来型の栽培
*7 主成分分析:データの次元の縮小に関する手法
*8 相関ネットワーク解析:解析対象を点で表し相関のある点同士を線で結んで様々な生体分子がどのように相互作用ネットワークを形成するかを明らかにする手法
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