スプレーノズルの国内市場でシェア3割を誇る株式会社いけうちは、スプレーノズルを活用した様々な商品を提案している。例えば、東京電力福島第1原子力発電所の事故で、節電に迫られた日本列島。今年の夏は、全国の商業施設などで “霧の打ち水” が活躍した。
見た目は薄い煙のようだ。霧は付着すると、すぐに気化する。その時、熱を奪うため、周囲の温度が3〜5度下がり涼しくなる仕組み。高圧のスプレーノズルから出る水滴の大きさは10〜30マイクロメートルと微細なため蒸発が早く、ヒトはぬれたと感じない。「女性の化粧が崩れることもない」(村上社長)
霧は、スプレーノズルの内部で水を圧縮したり空気を混ぜたりして生み出す。電気に頼る部分が少ないため、エアコンと比べると電力使用を40分の1に抑えられる。水道代を含めた運転コストも10分の1だ。震災直後から大幅な電力使用量の抑制を迫られた関東に拠点を構えるメーカーからの問い合わせが殺到。件数は前年の10倍まで膨らんだ。
この他、スプレーノズルは工場の洗浄ラインや農薬散布などで使われている。同社の競争力の源泉は約4万2000に上る品ぞろえ。霧の粒子の大きさや水圧、広がり方などを考慮し、様々な構造を試した結果だ。繊維機械の商社として産声を上げた同社がスプレーノズルの販売を始めたのは1961年。繊維機械の糸通しに摩耗しづらいセラミックが採用されていることに、創業者で現名誉会長の池内博氏が着目。スプレーノズルへの応用に取り組んだ。「当時、農薬の散布などに使われていた金属製のスプレーノズルは内部が摩耗で劣化しやすい課題があった」
その後、加湿・空調装置にも進出。当時、電子部品などの工場では屋内が乾燥すると静電気が生じ、歩留まりが悪くなる問題を抱えていた。いけうちは80年、1台で家庭用の10倍以上の能力を持つ産業用加湿器を投入。90年には制御機器などを組み込んだ工場の空調システムにも手を広げた。スプレーノズルという部品製造から、霧を使ったシステムメーカーへと脱皮を果たした。
そして、今年7月、神戸大学や神戸市などと共同で霧を使って農作物に肥料を与える栽培装置を開発。霧にした液体肥料をトマトやイチゴなどの根に吹き付けるもので、従来の栽培方法より低コストで設備も小規模で済む。「植物工場」など技術革新が欠かせない農業でも霧の活用拡大をにらむ。村上社長は「これまで以上に霧が持つ利便性を世界に訴えていきたい」と力を込める。節電や製品の品質向上といった課題は日本に限らず世界でも共通。いけうちの霧ビジネスは視界良好といえそうだ。<参考:日経産業新聞など>
《会社概要》
設立:1954年
本社:大阪市西区阿波座1の15の15
売上高:41億6000万円(2011年9月期)
従業員:約310人