薬用植物をはじめ遺伝資源を国内で安定的に確保・供給することが求められる中、鹿島建設、独立行政法人医薬基盤研究所、千葉大学は共同で、薬用植物「甘草(カンゾウ)」の植物工場による水耕栽培に日本で初めて成功し、植物工場で残留農薬の危険のない均質な甘草を短期間、かつ安定的に生産できる栽培システムを開発した。
漢方薬の原料(生薬)としての甘草は現在、国内使用量の100%を海外からの輸入に依存していますが、この水耕栽培システムにより、植物工場で均質な甘草を短期間に国内生産することができ、薬用植物の国内栽培普及に向けた新たな動きが加速するものと期待されます。
薬用植物は根に薬効成分を蓄積していることが多いため、今後は他の種類に対してもこの栽培システムの適用、採算性の検証を進めていきます。
開発の背景
最近話題になっている植物工場では、葉物(レタス等)の栽培が一般的ですが、工場普及の課題は採算性であり、収益性の高い作物の生産に対する期待感が高まっています。薬用植物は、付加価値の高い植物の代表ですが、根部に薬効成分を蓄積するものが多く、植物工場における栽培技術はほとんど確立されていませんでした。
甘草(生薬名)は、グリチルリチンを主な有効成分として根部(根およびストロン)に蓄積する薬用植物で、一般用漢方製剤において処方の70%以上に使われる最も汎用度の高い漢方薬原料の一つであり、また、味噌や醤油に甘みを付ける食品添加物や化粧品の原料などにも広く使われています。
国内使用量の100%を海外からの輸入に依存しており、そのほとんどが野生植物の採取でまかなわれています。主要輸入国である中国の採取制限や、世界的な生薬の需要増により、輸入価格は年々高騰しており、今後ますます資源確保が困難になることが懸念されています。
また、生物多様性条約関連の国内法が資源国で整備されるに従い、資源国との利益配分を考慮しないと生物遺伝資源へのアクセスが困難になってきている状況もあります。
このように甘草をはじめとする漢方薬原料の安定供給には懸念が生じており、医薬、食品、化粧品業界等を中心に国内栽培への要望が高まっております。
今回の甘草に関する市場性の確認、最適栽培条件の探索、事業性評価などに関しては豊田通商(株)に協力をいただきました。