大阪府立大とJSTでは、刺激に対する応答性を精密に計測できる新手法を開発し、植物がもつ幅広い同調性の詳細とそのメカニズムを明らかにすることに成功した。本研究の成果は、植物工場など人工栽培環境下における体内時計の精密制御技術の開発につながると期待されると同時に、過剰な応答性が引き起こすさまざまな生育不安定性の解明につながると期待される。
■ポイント
・挙動を予測するのが困難だった、植物の体内時計の動作メカニズムを明らかにした。
・実験と理論の双方から、体内時計の環境応答の振幅依存性を明らかにした。
・本成果は植物体内時計の精密制御技術の開発や生育不安定性の解明につながると期待される。
私たち人間が時差ぼけから回復できるように、植物にも自身の体内時計をさまざまな周期の環境刺激に同調できる仕組みが存在することが知られています。しかしながら、体内時刻の計測の難しさなどもあり、その詳しいメカニズムは明らかになっていませんでした。
本研究グループでは、モデル植物シロイヌナズナを用いて、同一個体にさまざまな周期の光刺激を複数回与え時計遺伝子CCA1(注1)の発現リズムを観察することで、刺激に対する応答性の変化を精密に計測しました。
その結果、個体レベルの概日リズム(注2)の振幅が小さくなるほど、光刺激に対する応答が極度に強くなることを明らかにしました。また、この応答性の変化のメカニズムを、体内時計を構成する細胞集団の同期状態/非同期状態の変化として数理的に解明することにも成功しました。
本研究の成果は、植物工場(注3)など人工栽培環境下における体内時計の精密制御技術の開発につながると期待されると同時に、過剰な応答性が引き起こすさまざまな生育不安定性の解明につながると期待されます。 本研究は、大阪府立大学 工学研究科の増田 亘作(マスダ コウサク)研究員と立命館大学 理工学部の徳田 功(トクダ イサオ)教授らと共同で行ったものです。
<研究の背景と経緯>
現在、気候変動や農業担い手不足、人口爆発などによる食料不足が懸念されている中、高収量・高品質な農業生産を持続的に行うことを可能とする先進的な栽培手法の確立が求められています。特に、植物工場(注3)と呼ばれる人工環境下における植物生産システムは、砂漠地帯や寒冷地だけでなく都市中心部における農業をも実現し、食料の安定生産技術として世界的に注目されています。
植物工場における作物生産においては、潅水、温度制御のみならず、光の照射条件(光環境制御)が重要です。そのため、過去30年にわたって、植物の生育と人工的な光環境の関係を明らかにする研究が数多く行われてきました。
しかしながら、人工の昼夜サイクル環境が植物の生育に与える影響は複雑であり、統一した理解は十分に得られていませんでした。また、近年の分子生物学的研究によって、植物の体内時計(専門的には概日時計と呼ぶ)を介して昼夜サイクルが生育に強く影響していることが判明しています。
このように、体内時計の精密な測定と動作メカニズムの解明は、先進的な植物生産技術開発の基礎として世界的にも重視されています。しかしながら、体内時計の挙動は複雑であり、その実態や動作メカニズムは不明のままでした。
※ 詳細は以下のPDFをご参照ください。
大阪府立大とJST、植物体内時計の柔軟な環境適応能力を解明。植物工場など精密制御技術の開発に寄与
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