理研など、植物の塩排出能を高め耐塩性を強化する化合物を発見

 理化学研究所(理研)とケミカルゲノミクス研究グループでは、植物の塩排出能を高め、耐塩性を強化する化合物を発見した。塩害は世界の灌漑農地の約20%で発生し、農作物の生育に大きな被害をもたらしている。2050年には世界人口が約90億人に達すると予測されていることから食料不足が懸念されており、持続的な食料生産の実現に向けて、耐塩性など植物の環境適応能力を高める技術が求められている。

 灌漑農業によって塩類が集積した地域や海沿いにある耕作地域では塩害が生じ、農作物の生産に悪影響を及ぼしています。一方、環境ストレスによってヒストン修飾などのエピジェネティック制御が変化することが知られています。

しかし、エピジェネティック制御に関わる多くの遺伝子は植物ゲノムに多数存在しており、ひとつの遺伝子を欠損しても他の遺伝子によって機能が補完されるため、従来の遺伝学的手法では解析が困難でした。

そこで、研究グループはエピジェネティック制御を阻害する化合物を用いることで、植物の耐塩性に関与するエピジェネティック制御の解明を目指しました。研究の結果、HDAC阻害剤「Ky-2」によってヒストンのアセチル化を増加させることで植物の耐塩性を強化できることが明らかになりました。今回の研究成果を応用することによって、農作物を塩害に強くする農薬の開発が進み、農作物の損失軽減が期待できます。
理研など、植物の塩排出能を高め耐塩性を強化する化合物を発見

<補足説明>
1.ヒストン修飾

ヒストンは真核生物のクロマチンを構成するタンパク質であり、DNA分子を折り畳んで核内に収納する役割をもつ。ヒストンは、アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化といった化学修飾を受ける。こうした化学修飾は、遺伝子発現などさまざまなクロマチン機能の制御に機能する。

2.エピジェネティック制御
DNA配列の変化を伴わず、DNAやヒストンへの後天的な化学修飾により制御される遺伝現象。DNAのメチル化や、ヒストンのアセチル化、メチル化などが、後天的な修飾として作用する。

3.ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)
ヒストンのアセチル化は、ヒストンに対するDNAの巻きつきを弱めることによって、転写因子やRNAポリメラーゼがより結合しやすい状態にする。ヒストン脱アセチル化酵素は、アセチル化された部位を加水分解により除去し、ヒストンへのDNAの巻きつきを強めることによって転写を抑制する。

参考URL:(独)理化学研究所 ホームページ