マイタケのシェアでは6割を占める雪国まいたけは1983年に、人工栽培が不可能とされていたマイタケの大量生産に成功した工場生産のパイオニア企業である。
現在ではマイタケを中心に、エリンギ・ぶなしめじを生産しており、2009年には、カット野菜事業にも参入し「雪国やさい革命」という商品にて、自社のキノコやモヤシ、さらには契約農家などから仕入れた野菜をミックスしたものを販売している。
売上も好調に推移しており、野菜価格の高騰や節約志向などから内食志向やキノコ類を購入するお客が増えていることが大きな要因、と考えられる。
モヤシについて、1袋を30~50円以下で購入できることから野菜価格の高騰や節約志向の主婦には非常に重宝される食材の一つである。
こうした安い価格でしか販売できない一方で、モヤシの原料となる緑豆の仕入れ価格は高騰している。もやしの種となる緑豆は、9割が中国からの輸入で、2009年秋に収穫された緑豆の取引価格が2008年産より約6~7割程度、高騰した、という。
主産地の吉林省や内蒙古自治区などが干ばつに見舞われたことや、中国国内での緑豆を使った加工食品や漢方薬としての需要の高まりが原因とされ、日本国内の業者は緑豆を確保するのに苦労している。
そこで、雪国まいたけでは、バングラディッシュのマイクロクレジット事業(マイクロファイナンス)で有名なグラミン銀行との提携した。
提携では、同社にとってソーシャルビジネスの普及と同時に、原材料(種)である緑豆を安定的に確保する狙いがある。
グラミングループの中核企業グラミン・クリシ、九州大学、そして同社が合弁会社「グラミン・雪国まいたけ」を設立し、モヤシの原料である緑豆の栽培を行なう。スケジュールとしては、(1)まず約8ha規模の実験栽培を開始し、(2)実験栽培が成功した後の2011年以降は500〜1,000haの大規模農場で本格栽培に移行、(3)栽培は現地の農民700〜800人程度に委託するとともに緑豆の選別作業に100人程度を雇用、(4)収穫された緑豆の約7割を雪国まいたけが日本に輸入し残りは現地で販売、(5)合弁会社で生じた利益はすべて同国の貧困層の福祉や奨学金などに活用する、となっている。
同社にとって、こうした海外へのビジネス進出は今回のバングラディッシュだけではない。2005年には中国進出を果たし、上海と長春でえのき茸の生産工場が稼動している。さらに成都でも、持分法適用の合弁会社でえのき茸の生産を開始した模様である。また米国でも、ここ数年にわたり北米販売子会社を通じて試験的な販売を行なってきたが、ニューヨーク州に生産工場を建設すると発表している(2012年3月の完成予定)。
まいたけは新型インフルエンザなどに対するウイルス抑制効果、血糖値上昇抑制効果、ダイエット効果など様々な薬理効果が明らかになっている。米国はダイエット志向が強く、しかもきのこと言えばマッシュルーム以外にないので、かなり伸びる余地があるだろう。一時の米国における「スプラウト・ブーム」のように、日本のキノコ・まいたけブームが来るのかもしれない。今回のグラミン銀行との提携プロジェクトについて、以下に関連した記事を掲載しておく。
「グラミン・ユキグニマイタケ」について、雪国が75%、グラミン・クリシ財団が25%を出資し、九大は取締役を派遣する。ビジネスモデルはこうだ。バングラデシュに合弁会社が保有する最大1000ヘクタールの農地で、もやしの種子「緑豆」の栽培を貧困層の農民に委託。収穫した緑豆の7割は雪国が日本での栽培用に合弁会社から購入。残り3割は現地で食用として低価格販売する。
合弁の利益は、貧困層の農業技術向上や福祉、奨学金に充てられる。出資に応じた配当はない。雪国にとっては現在、中国に依存している種子調達のリスクを分散。無農薬や土壌汚染の管理など、品質管理を徹底することができる。
岡田特任教授は近江商人の思想を引き合いに「売り手よし、買い手よし、世間よしの『三方よし』こそソーシャルビジネス。日本企業には元来その思想がある」と強調。雪国の山本忠義取締役は「グラミンと太いパイプを持つ九大は潤滑油になる」と期待する。
九大がソーシャルビジネスの研究や支援に乗り出したのは2007年。バングラデシュ出身のアシル・アハメッド准教授の着任が契機となった。NTTコミュニケーションズでICT(情報通信技術)を研究していたアシル准教授はバングラデシュの貧しい農家を支援するため、携帯電話のインターネット接続機能を利用、大手スーパーとの電子商取引に農家が参加でき、収益機会を増やせる仕組みを構築した。すでにこのシステムは現地で実証実験中だ。
「アジアのハブに」/九大は年内にも、グラミン銀やNTTなどと企業のソーシャルビジネス支援のための財団法人を設立。ビジネスの種になりそうな技術や製品を発掘するとともに、現地の貧困層のニーズや生活環境などの情報を企業に提供。事業化に向けた計画作りや実証実験を支援する役割を担い、雪国まいたけは事実上、プロジェクトの第1弾となる。
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