筑波大学、キーストーンテクノロジー、理化学研究所らの研究グループは、RGB(赤色、緑色、青色)LED独立制御型植物工場で、栽培したサニーレタスが、まったく同じ組成の液体肥料を用いて土壌栽培したものと比較したときに、見た目の違いだけでなく味や機能性などに関連する代謝物群の生産に影響することを、統合メタボローム解析により世界で初めて明らかにした。
屋内栽培型の植物工場における野菜は、一般的に土を使わず液体肥料を用いて栽培されています。
本研究では、市場でよく出回っている2品種のサニーレタスに対して、同じ液体肥料と光強度を用い、実際に市場に出荷する野菜を栽培・出荷している植物工場および土壌で栽培し、それぞれ得られたレタスの葉について、2種類の高性能質量分析計(GC-MS2)およびLC-MS3))による統合メタボローム解析を行いました。
その結果、代謝物プロファイルの差異については、植物体の部位や品種の違いよりも栽培環境の違いが大きく寄与することがわかりました。
また、メタボロームデータの詳細な解析により、商用植物工場で栽培したサニーレタスは、土壌栽培したものよりも旨味成分であるアミノ酸類を多く蓄積し、苦み成分であるセキステルペンラクトン類の蓄積は抑制されることも明らかとなりました。
今回用いたメタボロ―ム解析技術は、植物工場で栽培される野菜の「味」や「機能性成分」をカスタマイズするための指標として利用できます。
この方法は中身(代謝物)を見てから栽培条件の詳細な検討を進めるといった、今までと逆のアプローチであり、味や機能性などの特徴を付与した高付加価値農産物の生産技術の開発への貢献が期待できます。
<研究内容と成果>
本研究では、実際の植物工場用に準じた栽培条件を用いており、土壌栽培においても液体肥料の組成や光源の光強度をできる限り同一となるようにしました。
このような条件のもと、サニーレタス2品種(ブラックローズおよびレッドファイヤー)を33日間栽培し、収穫したサニーレタスに対して見た目(表現型)を観察しました。
次に、それぞれの植物体の外葉および中葉をサンプルとして、GC-MSおよびLC-MSを用いた統合メタボローム解析を実施しました(図1)。
その結果、見た目について、植物工場栽培のサニーレタスは、土壌栽培のものと比較し、品種特有の褐色は観察できず、葉の形状も異なることがわかりました(図2A)。
また、メタボローム解析の結果、味に関連するアミノ酸や糖などの一次代謝物や機能性を有するような二次代謝物を含む約300個の代謝物が検出されました。
各サンプルの代謝物プロファイルの比較から、サニーレタスの葉の部位(中央、外側、その中間の葉)による違いや品種の違いよりも、栽培環境の違いが代謝物組成に大きな影響を与えることが判明しました。
また、植物工場で栽培したサニーレタスは土壌栽培で栽培したものと比較し、旨味成分であるアミノ酸の含量が高く、レタス特有の苦味成分であるセキステルペン類の含量が低いことが明らかとなりました(図2B)。
<今後の展開>
これまで植物工場で栽培された野菜と屋外で土を使って栽培された野菜では、味や見た目が異なることは知られていました。今回の研究のように、野菜の成分そのものを直接比較することで、代謝物の種類や配合量と、私たちの味覚との相関を知る手がかりを得ることができます。
今後さらに、光質や液体肥料の組成等の違いと代謝物成分の関係について詳細に解析していくことで、野菜の味や機能性をカスタマイズする栽培条件を導き出すという、従来とは逆のアプローチによる新たな高付加価値農産物産生につながることが期待されます。
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