ポストハーベスト・ロス問題と都市農業。AVFサミットから考える持続可能な農業②

食糧需要に供給が間に合わない恐れがある今、飛躍的な収量増を実現する植物工場のような生産技術だけでなく、収穫から消費者の口に入るまでのロス(輸送・保管の過程、小売・外食の廃棄など)「ポストハーベスト・ロス」を解決していく必要がある。

関連レポート
米国農務省の環境制御型農業(CEA)戦略。AVFサミットから考える持続可能な農業①

1. 世界的な食糧の欠乏

「世界は明らかに食糧の欠乏状態にある」。AVF Summit 2017において、世界食糧保全センター(*1)の代表者であるC.ウィルソン氏はこう警笛を鳴らした。

人口増加や畜産需要の高まりによって、2050年までに食糧需要はおおよそ倍増するが、現在の収量増加ペースではその需要を満たすことは到底不可能であるというのが、その理由である。

実際、2050年までに食糧供給を倍増するには、今後30年以上に渡って、年率2.2%程度の収量成長率を維持する必要があるが、近年の収量増加率は年率1.0~1.6%程度に留まっている。

ポストハーベスト・ロス問題と都市農業。NYC AgTech Week 2017から考える都市農業の「今」②世界食糧保全センターのC.ウィルソン氏[筆者撮影]


 C.ウィルソン氏は「『緑の革命』(*2)で起こったような急激な収量増加を期待することは難しい」と言う。技術革新による収量増加以上に「良質な農地の減少」(*3)や「地球温暖化」による負の影響が大きくなるというのが同氏の意見である。

地球温暖化については「空気中の二酸化炭素濃度の上昇が作物の収量を高める」と見る向きもあるが、同氏は「海水面の上昇による農地の塩化」、「気温・湿度の変化」、「嵐、豪雨、竜巻、熱波、干ばつなどの異常気象の増加」などによって、間接的に農地荒廃を引き起こすと考えている。

コーンや大豆といった主要な穀物の場合、3℃程度の気温の上昇で5~40%程度の収量低下が起こりうるという調査結果も紹介された。


*1: World Food Preservation Center。食糧インフラの改善などを目指す団体で、世界の主要な農業系大学で構成される。

*2: 「緑の革命」とは、1940~1960年代にかけて、高収量品種の開発や化学肥料の投入などによって穀物の大量増産が可能となったことを指す。この時期の収量増加率は年率3~5%に達した。

*3: 土壌侵食や汚染、肥沃さの喪失などによって世界的に農地の栽培条件が悪化している。


イノプレックス・会社サービスの公式ページ
↓↓↓ 弊社では新規事業に関する市場調査・コンサルティング、
新しい技術・サービスに関するニーズ調査なども行っております ↓↓↓世界の植物工場・市場規模データ

投稿者プロフィール

八隅 裕樹
八隅 裕樹
・神戸大学経営学部 卒(2012年)
・兵庫県信用農業協同組合連合会 入会(2012年~現在)
・コロンビア大学ビジネススクール 客員研究員(2017年~現在)

【資格】
・中小企業診断士 ・応用情報技術者

【研究】
・農業、食品産業 ・農業金融、協同組合金融 ・金融・経済史