メンデルの優性の法則、100年ぶりに謎が解明。育種技術への応用に期待

 東北大学大学院生命科学研究科の渡辺正夫教授、高田美信技術専門職員らの研究グループは、農研機構、奈良先端科学技術大学院大学、大阪教育大学、神戸大学、東京大学との共同研究により、どちらか片方の親の遺伝子の性質だけが子に現れるというメンデルの「優性の法則」として知られる現象について、複雑な優劣関係を決定する新たな仕組みを世界で初めて明らかにしました。
メンデルの優性の法則、100年ぶりに謎が解明。育種技術への応用に期待
 親から子へと遺伝子が受け継がれる遺伝現象において、片方の親の遺伝子の性質のみが子に現れる場合が多く見られます。これはメンデルの「優性の法則」として古くから知られており、性質として現れる遺伝子を優性遺伝子、発現しない方を劣性遺伝子と呼びます。

これまで劣性遺伝子は一般に機能を失っているために性質が現れないと考えられてきましたが、同研究グループは、優性の遺伝子から作られる小さな分子(低分子RNA)が、劣性の遺伝子の働きを阻害するという全く異なる仕組みを発見しました。

さらに今回新たに、この低分子RNAを構成する塩基(核酸塩基)の配列が変化することによって、特定の遺伝子同士で複雑な優劣関係が生み出されることを明らかにしました。
約100年前、遺伝子間の優劣性を決定する因子が進化する可能性について遺伝学者間で激しい論争がなされましたが、今回、その時に想定された仮説の因子が低分子RNAであり、それが進化することを証明しました。

 今回の研究は、遺伝子の優劣関係を制御する新たな仕組みを明らかにしただけでなく、有用な遺伝子を働かせたり、有害な遺伝子の働きを抑えたりする技術へと結びつく可能性があり、植物育種への応用が期待できます。
本成果は、英科学誌Natureの植物専門オンライン姉妹誌、Nature Plants(1月号:英国時間12月22日(木)午後4時)に掲載されます。

【解説】
 子供は両親から一組ずつの遺伝子を受け取るため、父親と母親の両方の性質を持ち合わせることになりますが、いずれか一方の性質のみを示す場合が多く知られています。これはメンデルの「優性の法則」として古くから知られる現象です。

各遺伝子は父親・母親由来のもので一対になっており、それぞれを対立遺伝子と呼んでいます。その対立遺伝子間で複雑な優劣関係が生じる場合も知られており、例えば、4種の対立遺伝子(S1、S2、S3、S4)の間でS1>S2>S3>S4という階層的な遺伝子の優劣関係が見られる場合、両親からS1型とS2型の遺伝子を受け継ぐと子供にはS1型の遺伝子の性質のみが現れます。

しかし、S2型とS3型の遺伝子を受け継ぐと、今度はS2型の遺伝子のみの性質が現れます。このような複雑な優劣関係がどのように決まるのかは未解明でありました。