農業生物研、イネの栄養の吸収と蓄積を促進させる遺伝子を発見

 農業生物資源研究所は、植物の主要な栄養素(窒素、リン酸、カリウム)を含む複数の栄養素をバランスよく吸収し、蓄積を促進させるイネのRDD1遺伝子を発見した。今までにも単独の栄養素の吸収・蓄積に関わる遺伝子は報告されていたが、複数の栄養素の吸収・蓄積をバランス良く促進させる遺伝子は初めての発見だという。
農業生物研、イネの栄養の吸収と蓄積を促進させる遺伝子を発見
<ポイント>
・複数の栄養素をバランスよく吸収し、収量を向上させるイネの遺伝子を発見しました。
・この遺伝子を強く働かせたイネは、少肥料栽培での収量が最大で約2割増加しました。
・新たな品種や栽培技術の開発により少ない肥料でこれまでと同様の収量を得ることが可能となります。

<研究の社会的背景と経緯>
 植物にとって肥料は必要な栄養素を供給し、生産力を強化するために欠かせません。しかし、コスト面の問題や、植物に吸収されなかった余剰肥料の流出による水質汚染の問題から、できるだけ少ない施肥での栽培が望まれており、すでに施肥の時期・量の最適化による施肥量の低減が実施されています。

一方で、植物の遺伝子機能を利用して肥料に含まれる栄養素の吸収を促進させる試みは、単独の遺伝子の働きを改変することにより、1、2種類の栄養素の吸収もしくは蓄積を促進させた例が報告されています。

ただし特定の栄養素のみの吸収・蓄積を強化すると栄養素バランスが崩れるため、収量の増加にはつながっていませんでした。
一方で、生物研ではイネの水や栄養素を輸送する維管束という組織にRDD1というタンパク質が局在していることを見いだしていました。このタンパク質が栄養素をバランス良く輸送する鍵となっているのではないかと考え、これを確かめる研究を行いました。

<今後の予定・期待>
 新たな品種や栽培方法の開発により、RDD1遺伝子の働きを強めることで、少ない肥料で通常と同様の収量を得ることが可能になります。この少肥料栽培により、低コスト化、および土壌に残った余分な肥料による環境汚染を防止できます。

またイネにはRDD1遺伝子に似た遺伝子が3つ存在し、栄養素の吸収・輸送・蓄積に関してRDD1と異なる役割を有する可能性があります。そのため、これらの機能を明らかにし、RDD1遺伝子と一緒に利用することで、収量増加へのさらなる効果が期待されます。